定義の確認から始める

「プロバイオティクスは腸に良い」という言い方は広く流通している。しかしこの一文には、定義上は支持されない一般化が潜んでいる。プロバイオティクスの効果は、属や種という大きな括りではなく、菌株(strain)という最小単位に帰属する。本稿は ISAPP(International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics)の2014年コンセンサス定義に基づき、菌株特異性という原則を整理する [1]。

ISAPP 2014 の定義

プロバイオティクスの定義は、2001年の FAO/WHO 専門家会議による作業定義 [2] を、ISAPP が2014年に文法的に微修正して確定した [1]。確定した定義は次の一文である。

適切な量を投与したときに宿主に健康利益をもたらす生きた微生物

ISAPP 2014 は、この定義の運用上の含意も整理した。要点は四つに集約される。生きていること。十分な量であること。健康利益が実証されていること。そして、分類学的に明確に同定されていること、すなわち属・種に加えて株のレベルで特定されていることである [1]。

効果は属でも種でもなく「株」に帰属する

ISAPP 2014 が最も強調した点が、菌株特異性である [1]。プロバイオティクスの効果は、属(genus)や種(species)ではなく、株(strain)に帰属する。

この原則の含意は明快である。ある株で示された効果を、同じ種の別の株や、同じ属の別の種に外挿してはならない。たとえば、ある乳酸菌の特定の株で消化器系のアウトカムに効果が示されたとしても、その結果は同じ種の別の株が同じ効果を持つことを意味しない。ましてや「乳酸菌」という大きな括り全体に一般化することはできない。

「乳酸菌は体に良い」「ビフィズス菌が腸に効く」といった属・種レベルの言明は、定義の側から見ると科学的に支持されない一般化である。なぜなら効果の単位は株であり、株が変われば持っている性質も変わりうるからである。ISAPP は、製品表示や研究報告において、属名・種名に加えて株を特定する番号などで明示すべきだと整理している [1]。

なぜ株まで特定する必要があるのか

同じ種に属する微生物であっても、株が異なれば遺伝子の構成や代謝の性質が異なりうる。ある株が持つ特定の機能(特定の酵素活性や表面構造など)を、同種の別株が必ず持つとは限らない。効果がそうした株固有の性質に依存する以上、効果もまた株固有のものとして扱う必要がある。これが、定義が株レベルの同定を要件に含める理由である [1][4]。

この原則は、エビデンスの読み方にも直結する。あるプロバイオティクス研究の結果を解釈するときには、どの株を、どの量で、どのアウトカムに対して検討したのかという粒度で読む必要がある。この点は別稿で扱う。

発酵食品はそのままではプロバイオティクス食品ではない

菌株特異性の原則は、発酵食品とプロバイオティクスの関係にも線を引く。ISAPP は2019年に発酵食品に関するコンセンサスを発表し、発酵食品に微生物が含まれていることと、その食品がプロバイオティクス食品であることとは別であると整理した [3]。

発酵食品がプロバイオティクス食品と呼べるのは、健康利益が特定の株で実証され、その株が十分量含まれている場合に限られる。多くの伝統的な発酵食品では、含まれる微生物が株レベルで特定されておらず、特定株での健康利益も実証されていない。したがって「発酵食品=プロバイオティクス食品」という等式は、定義の側から見ると成り立たない [3]。発酵食品には発酵食品としての価値の議論があるが、それはプロバイオティクスの定義とは別の枠組みで語られるべきものである。

機序と一般化の節度

プロバイオティクス株が宿主に作用しうる経路として、競合排除、腸管バリアへの影響、免疫調節などが機序候補として議論されている。これらの機序は概念として整合的に語れるが、機序が描けることと、特定株でヒトの健康アウトカムが示されることは別である。

老化との接続についても同様の節度が要る。特定株の単一の研究結果を、長寿効果として一般化することはできない。短鎖脂肪酸や慢性炎症と老化の一般的な機序については本媒体で別途扱っており、ここでは繰り返さない。

定義に立ち返るなら、プロバイオティクスについて語れることは「どの株が、どの量で、どのアウトカムに」という粒度に限られる。菌株特異性とは、効果の主張をその粒度に縛る原則であり、安易な一般化への歯止めである。